この地球は平和だ。
戦争や経済格差はあるけど、人間にとって死というものがそんなに身近な存在じゃないからだ。
死ぬというのは特別なこと。
人を殺す。
人に殺される。
人を殺すことによって、法的に裁かれる。
誰もができることではない。
秩序ある世界の前提は平和だからだ。
俺たちが住んでいる地球は宇宙にある惑星や恒星たちに比べるととても異質だった。
俺は知らなかった。
だって、地球で俺が一番強いと思っていたから。
「コラッ。唯くん。また外ばっかりみて、今は国語の時間だから、ちゃんと教科書みなさい。」
「チッ。」
残念なことに俺は今、国語の授業を受けている。
俺は唯竜牙(ゆいりゅうが)小六、東京の公立小学校に通っている。
身長は、やっと150cm越えになった。
152cmで42キロ。
ちょっとくせ毛がある短髪だ。
運動神経は普通。
得意なスポーツは特にない。
ドッジボールは好きだけど、サッカーは苦手。
えっ。
勉強?
全般的に嫌い。
将来に役に立たないんじゃないかって思っている。
だから授業中は考え事か睡眠か、仕事だ。
小学生だけど、仕事してんだよ。
俺にしかできない仕事を。
みんなが知らない仕事を俺がこなしているの。
昼間にしかできないからね。
夜は俺眠いし、9時には寝ちゃうし。
俺が昼間に働いていないと、みんな殺されちゃうよ?
ヤツらに。
エナジーを纏ったヤツら。
エナジーってのは体中から溢れるオーラってやつだ。
みんなには見えないけど、俺には見える。
正確には俺には見えないけど、もう一人の俺なら見える。
俺にはもう一人俺がいる。
それは、俺が小さい頃からいた。
もう一人の俺。
俺はそいつのことを「アバター」って呼んでる。
見た目は俺のまんま。
俺が着ている服と同じのを着ている。
朝起きて、違う服を着ていたら、そいつも同じのを着ている。
俺と「アバター」の違うことは、「アバター」の俺は、光を纏っている。
そうだ。
俺には使えない「エナジー」を纏っている。
だから、「エナジー」を纏っている化け物どもと戦える。
どうせ、今日も俺の「アバター」の時間がやってくる。
放課後。
授業は終わり、俺は足早に家に帰ろうとしていた。
すると、
「竜牙!!」
「なんだ。おまえか。」
鈴中愛。
俺と幼馴染の女。
身長150cm。
体重は聞いたら、ダメらしい。
でも、痩せてる方じゃねーか?
どうでもいいけど。
髪の毛はショートカットで、頭の上の方で髪の毛をゴムでくくっている。
昔からやたら俺にうるさい女。
「あんた。また授業中、ボーとしてたんだって?2組の田中先生が言ってた。」
「いちいち人のクラスのことをベラベラ喋る先公だな。」
「仕方ないでしょ。私、生徒会長なんだから。よその生徒のことも気にかけているのよ。ちゃんとしなさい。来年の春から、中学生でしょ。」
「うるさい。俺は俺で忙しいの。」
「嘘ばっかり。家帰って何もしてないくせに。」
(無知な女ってほんとバカじゃねーか。俺も忙しいーっの。)
「愛は中学から竜牙や俺と別々になるから、さびしいんだよ。」
こいつは、中西良太。
身長は俺より高い156cm。
体重48キロ。
なかなか体格もいい。
軟式野球をやってて、運動神経もいい。
髪の毛もストレートで短髪。
女にモテる。
ちなみに勉強もできる。
学年成績一位が愛で、二位が良太だ。
「何言ってるの。良太。全然さびしくないわ。良太と別の中学に行くのは少しつまんないけど、竜牙とは別れられてほんとに良かったわ。」
「いちいちめんどくせーな。俺、忙しいから。」
「暇人のくせに。」
そう言って、俺は愛と良太からそそくさと離れた。
今は集中したいんだ。
戦いに。
街中に異形の化け物がたくさんいる。
人間くらいの大きさで、体は手がたくさん生えていたり、目がたくさんあったり、お化けのような妖怪のような。
普通の人間には見えない。
いや、それどころか。
この化け物たち、エナジーを纏っている化け物たちのことを「ミクロ」と呼んでいる。
なんで「ミクロ」なのかわからないけど、ガキの頃からそう呼んでいる。
このミクロどもは俺に触れることもできない。
俺の存在に気付きもしていない。
ただ俺のアバターにだけ反応し、襲いかかってくる。
俺自身は住宅街を歩き、家に帰っている。
俺のアバターは、俺んちの最寄りの駅近くの街中でミクロと交戦している。
ミクロどもは何十体とアバターに向かってくる。
俺のアバターは拳一撃で、ミクロどもを仕留める。
夕方までには全ミクロを撃破する。
倒したミクロどもは死体も残らず、消滅していく。
なんでそうなっているのか、俺にもよくわからない。
ミクロどもは俺や普通の人間たちには何もできない。
だけど、俺のアバターにはミクロが見えてしまっているし、ミクロは襲いかかってくるから、戦わなければならないのかって勝手に思っている。
別にいいんだ。
アバターじゃない俺は、そんなに運動も人より特別できるわけじゃないし、アバターの俺がすごければそれでいいんだ。
みんなとは違う特別な能力を持っているということなんだから。
愛なんかどうでもいい。
眼中にない。
勉強やスポーツができるやつなんか山ほどいる。
でも俺みたいにアバターが出せるやつなんてそういない。
だから、愛も良太も全然うらやましくない。
たぶん、俺がいなかったら、あのミクロどもが溢れかえって、現実世界をめちゃくちゃにすると思うんだ。
そうなったら、世界は終わるくらいやばそうな気がする。
だから、もしかしたら俺、世界守ってんじゃねって感じ。
ああ。
今日も学校の授業は全然聞いてなかったけど、俺のアバターがミクロどもを倒してくれたおかげで平和だ。
翌日の学校。
朝のホームルームが終わった。
担任の田中先生が俺を呼んだ。
「唯くん。大事な話があるから、一限目の前に、理科室に来てくれる?」
「うん。わかった。」
田中先生。
今年、うちの小学校に赴任してきた女の先生。
27歳で独身。
メガネをかけていて、優しい先生。
俺は別に好きでも嫌いでもない。
俺は田中先生から職員室にも理科室にも呼ばれたことはない。
なんだろ?
俺は理科室の扉を開けた。
すると、田中先生が立っていた。
田中先生の体からエナジーが溢れていた。
「先生!!どういうこと!?」
「うふふふ。唯くん。私、あなたを殺そうと思うの。」
エナジーを纏った田中先生は竜牙を襲いかかってきた。
エナジーを込めた拳で竜牙を殴りつけたのだ。
スカッ。
先生の拳は竜牙の体をすり抜けた。
「くっ。やっぱり当たらない。」
「先生がエナジー使えることは驚いたけど、先生バカじゃないの?エナジーは生身の人間には効かないよ。」
「クククク。違うのよ。効かないんじゃないの。干渉できないの。でもね。あんたを殺せば、そうじゃなくなるの。」
「先生なのに、そんなこと言っていいの?俺、怒ったぜ。出ろ!!俺のアバター!!」
竜牙の体からもう一人の竜牙、アバターの竜牙が現れた。
田中先生より大きなオーラーを纏った竜牙のアバターは、先生を押し倒した!!
バーン!!
「あうっ。」
「先生、やめときなよ。俺のアバターは、毎日ミクロどもを退治してるから強いんだよ。先生なんかじゃ敵わない。」
「口の減らないガキね。たしかにあんたの能力には勝てそうにない。だけど、あんたの本体だったらどうよ?エナジー使えないでしょ?」
「アバターじゃない俺自身?だったら何?」
「本体のお前を殺してやる!!」
田中先生は、エナジーを出すのをやめ、隠し持っていた包丁を取り出した。
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