審判のアルデランスの能力「バッケッション・サダ」(物体組み変え)により、二つの闘技場AブロックとBブロックが解体され、一つの大きな舞台として再構築された。
決勝戦用の闘技場の舞台だ。
控室では、良太と愛が未だ意識を失ったまま、眠り続けている。
さっきまで逆上していた竜牙だったが、すっかり冷静さを取り戻していた。
「不思議だ。さっきまではあのティラノサウルスに対して怒りの感情しかなかったけど、おかしい。戦いたくて仕方がない。いや、俺の力を試すのが楽しみなのか。ラビ(太陽)の力を全力で出せる相手だもんな。今までは良太が俺の修行相手だったから、ラビは使えなかったもん。使ったら修行中に絶対良太を殺していたし。」
「あんたのそういう自分強い感がホント腹立たしいのよ。」
「はっ。」
竜牙は思わず、横たわっている愛を振り返ってみた。
愛は寝たままだった。
「なんだ今の?愛の声がしたと思ったんだけど。」
大きくなった闘技場の舞台の上では、ティラノサウルスのパビューダが竜牙を待ち構えていた。
「さっき試合をしたばかりなのに、疲れてねーのか?」
「心配ご無用。お前は自分の心配でもしとけ。」
「ええ。いいの?先言っておくけど、実は俺、スタミナとかないんだ。だからスタミナ関係なしに戦うことができるんだぜ。」
「さすが地球人のガキ。戯言を…。お前を負かすのが楽しみだ。」
「それでは決勝戦!!地球人『唯竜牙』対ティラサウルスの『パビューダ』はじめ!!」
ドン!!
竜牙は初っ端からラビのエナジーを全開にして、パビューダに向かった。
パビューダも竜牙に近接戦闘を望んでいるため、強力なエナジーパワーを全身に纏った。
ドンドン!!
バキバキ!!
強力なエナジーパワーを纏っている両者。
パビューダとラビのエナジーを纏っている竜牙。
ともにエナジーパワー12000以上。
接近戦での両者は互角。
竜牙はパンチやキックで、ティラノサウルスの巨大な体にダメージを与えようとする。
パビューダは竜牙の攻撃する箇所がだいたい予測できるので、その箇所を特にエナジーパワーで強化し、シールドにより竜牙の攻撃が肉体に届かないよう操作している。
パビューダは、頭や尻尾、小さい腕の爪を活かして、竜牙の攻撃を防ぎつつ、攻撃にも転じている。
「おまえ、パワーは相当なものだな。小さい体なのに。」
「へへ。太陽の光を吸収して自分のエナジーにできるんだ。こんなくらい楽勝だぜ。」
「太陽?地球の恒星か。面白い力だが、オレにダメージを与えられるほどのエナジーパワーじゃない。」
「いいよ。やってみたい技たくさんあっから!!『シリンティ』!!」
竜牙の右手に光が集まり物質が生成されていく。
「『ダランティ』!!(大鎌)」
竜牙は以前、良太との修行の際にみせた、シリンティの真似事(物質創造)を行い、大鎌を作った。
「ほう。そんなこともできるのか。だが、ククク。」
「くらえっ!!だりゃあ~!!」
竜牙は大鎌を持って、パビューダの頭を目掛けて斬りかかった。
ザクッ。
ボキボキボキ。
シュー。
大鎌の攻撃力、エナジーパワーが圧倒的足りず、パビューダの頭に鎌の刃は粉々に砕かれてしまった。
「ありゃ?」
「おいおい。遊んでいるのか?ちょっと考えればわかるだろ?その鎌にお前のエナジーパワーをのせずにどうやって攻撃するんだ?」
「のせる?どうやってのせるの?」
「このクソガキ!!舐めてやがる!!もう殺す。」
パビューダのエナジーパワーがさらに濃く力強くなった。
ズズズ。
「さっきより強くなったか!?」
ドン!!
パビューダのダッシュが竜牙の目に止まらない。
「速っ…うぐっ。」
ボコーン!!
気づいたときは竜牙は闘技場の場外まで吹っ飛ばされていた。
「さっきより桁違いの強さだ!!」
「オレは自分でも驚いている。この力は最近身につけた力だ。『パーラ』。敵に舐められれば、舐められるほど、オレのエナジーが上昇していく技だ。」
「は!!俺がいつおまえを舐めた?俺はさ、楽しんでたんだぜ?俺が使っているラビの力は地球じゃ使えないの。強すぎて仲間殺しちゃうから。だから、お前でこの力が試せるから楽しんでたんだぜ。あとシリンティってやつも使いたかったし。ほら、舐めてねーだろ?」
「この恐竜祭は戦いの祭りだ。戦いには当然命はかけてるんだろうな?」
「えっ。命!!(俺が死んでも本体無事って聞いたらこいつまた怒るんじゃね?)」
「オレやオレたち恐竜は、戦いには命をかけている。たぶんお前以外の地球人も命はかけていたと思うぜ。戦いの一つ一つに覚悟を感じた。だが、お前には全く感じん!!そこが許せん!!だから舐めてるだ!!」
またパビューダのエナジーが上昇した。
ズズズ。
「ちょっとヤベな。ラビのエナジーを纏っている俺でもヤバい!!じゃあ愛やちっこい恐竜と戦っている時はなんでその力発動しなかったんだよ!!」
「あの地球人のお嬢ちゃんは口では生意気なことを言っていたが、戦いに対しては真剣そのものだった。舐めているかどうかはオレの能力『パーラ』自身が相手の心を洞察した結果、生み出される力だ。お前はどう考えても、『パーラ』に該当する。あーぶっ殺してー!!」
竜牙が場外に吹っ飛んで体勢が整っていないうちに、パビューダはタックルを仕掛けてきた。
あんな大きなティラノサウルスなのに、エナジーパワーが増強しているためスピードが速く、竜牙は避けきれない。
ドブッ!!
竜牙のアバターは血が出ないが、シールド越しに体がぐちゃぐちゃに押しつぶされているのわかる。
「痛みは感じないけど、これが生身の体でされていたら想像を絶する痛みだろうな。てか死ぬくらいかも。」
「ごちゃごちゃうるさい!!」
パンッ。
パビューダは尻尾で竜牙を上空まで吹っ飛ばした。
「攻撃が速すぎてこっちから攻撃ができない!!これほど差があるなんて。こうなったら…。」
竜牙が何か思いついたようだが、それより早くパビューダが。
「これで終いだ。これほど強力になったエナジーで放たれるこの技が楽しみだ。『アギャ・ケンドレッド・レーザー』(濃縮された赤いレーザー)!!」
愛を瀕死にしたパビューダの炎のレーザーだ。
パーラが発動する前は、球体ほどの炎のレーザーだった。
しかし、今のエナジーで放たれるレーザーの大きさは、濃縮し力を集約させているにも関わらず、竜牙アバターの体一つを覆うほどの大きさがある。
ドビューン!!
炎のレーザーが竜牙がいる上空目掛けて発射された。
竜牙には到底避けきれないスピードのレーザー。
竜牙も何かが来ることはわかった。
とりあえず両腕でガードの構えを取った。
エナジーパワーエナジーマジックどっちの攻撃すらもわからない。
だけど、頭だけは守りたいと思った竜牙は両腕をクロスさせ、頭にガードを集中させた。
ズオッ。
炎のレーザーは竜牙を一瞬で焼き尽くし、宇宙の彼方に消えていった。
かのようにみえた。
ズオオオ。キュルキュルキュル。
よくみると、炎のレーザーが竜牙の体の中に入っていっているようだ。
「は!?」
「あれ?やられたと思ったのに?どんどん力が湧いてくるぞ。」
パビューダの強化された「アギャ・ケンドレッド・レーザー」は、全部竜牙に吸収されてしまった。
全力で放ったパビューダは疲労ですぐには行動できない。
竜牙のエナジーは漲りまくっていた。
パビューダの炎のレーザーはエナジーマジックの攻撃。
そのエナジーマジック分のエナジーを全てエナジーパワーに還元させていた。
もちろん竜牙は意識してそういう技術ができるタイプではない。
無意識だ。
自分の得意な方へと力をシフトさせたい一心に。
上空から加速し、降りてくる竜牙。
今度はパビューダがそのスピードについていけない。
ドン!!
竜牙はパビューダの顔面を殴打した。
渾身のエナジーパワーを右手に込めて。
パビューダのシールドを完全に破壊し、殴りつけた。
当然、パビューダ自身とてつもないダメージ。
下手をするとシールドを破壊されるだけで死亡する危険もある。
地面に激しく叩きつけられ、パビューダは失神した。
その際に、牙が数本折れた。
竜牙はこの試合のルールを忘れておらず、ちゃっかりパビューダの牙を拾い、上空に掲げた。
「勝者地球人の『唯竜牙』!!!」
恐竜たちがいる観客席は静まりかえっていた。
「えっ。意外なの?俺だってびっくりなんだぜ?こんな能力あったなんて。」
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