今から五年ほど前。
僕は配属先が大阪市内のとある大きなビルだった。
夕方。
ちょっと嫌なことがあったので、ビルの外に出て休憩をしようと思った。
ビルの外で僕はボーとしていた。
「はあ〜。ホントに腹立つ。山本の野郎。何を僕が言うこと勝手に怒ってるねん。いい歳してガキや。プンプン怒りやがって。」
僕はこの頃から、トラックドライバーの山本さんの惚れていた。
だけど、僕は愛情の裏返しのせいか山本さんに意地悪ばかりしていた。
この時は、冷たい態度をとるっていう意地悪。
そしたら、山本さんも冷たい態度をとるようになり、僕はプンプン怒っていた。
「山本のこと好きやのに、なんでうまくいかないんだろう?」
僕がそう思っていると、ビルの自動ドアが開いた。
プワァァ〜。
当然、彼は現れた。
短髪でガチムチ体型。
なのに、服装はぶっ飛んでいる。
高級ブランド品の香水のニオイがプンプン。
GUCCIと大きく書かれたマントのようなものを羽織っていた。
靴もギラギラに光っている高そうな靴。
芸能人のファッションチェックをするような人たちの格好。
僕は目を奪われた。
この人。
こんな変なファッションしなかったら、僕のタイプだ。
ガチムチだし、短髪だし、男らしい感じなのに。
年齢は40代前半くらい。
たぶん身長174cm。
体重83kgって感じ。(なんとなく)
僕が彼を凝視していると、
「ん?どうしたの?」
彼が話しかけてきたのだ。
「すごいマントですね。そんなの見たことないです。」
「ああ。コレ。まあね。俺、アパレル関係には詳しくてね。君は?」
「僕はこのビル3階に入っている会社の鈴木リョウタです。」
「俺は、11階の会社で働いている西口徹。鈴木くん。ファッションの興味があるんだったら、俺がコーディネートしてあげようか?」
「えっ。(興味あるなんて言ってないけど。)ホントですか。嬉しいです。」
「俺は仕事がもう終わったから、今からでもいいよ。鈴木くんはどう?」
「(わっ。めちゃくちゃ急だ。)じゃあちょっと仕事片付けて、すぐ降りてきますね!!」
僕は急いで自分のオフィスに戻った。
内心ドキドキしていた。
これってナンパ?
うわ〜。どうしよう。
今日、体の関係を迫られたらどうしよう〜。
山本のやつ、ざまあみろ。僕は西口さんといい関係になるんだもんね。
僕は急いで仕事を終わらせ、西口さんと合流した。
「鈴木くん。早かったね。じゃあ行こうか。俺のオススメのお店に。」
僕と西口さんは梅田にやってきた。
グランフロントに入っていGAPに入った。
「GAPに入るの久しぶりです。」
「そう?鈴木くんに似合うのは、あんなのどうだい?」
僕は内心ファッションには興味がなく、服選びを終わらせて、次何をするかしか気になっていなかった。
僕は西口さんに言われた服を迷いもせずに買った。
「鈴木くん。決断力早いね。いいね。君いいね。」
「テヘヘ。」
なんだろう。
僕が西口さんに下心があるせいか、褒められると無性に嬉しくなった。
「この後どうする?」
きた!!
ああ。
ホテルとか行っちゃうのかな?
僕は西口さんに身を委ねる。
「ディナーでも行くかい?」
「お腹すきましたね。行きましょう。」
チッ。
僕は内心腹が立った。
食欲より性欲の方が爆発しそうなんですけど?
俺がお前を襲ってやろうか。
梅田のどこかのビルで僕と西口さんはディナーをした。
周りはカップルや仕事の関係者。
でも周りなんてどうでも良かったんだ。
すごくドキドキする。
デートするってこういうことなのかな〜?
「鈴木くん。ビール飲める?」
「はい。少しだけなら!!かんぱ〜い!!ごくごく。」
「いい飲みっぷりだね。」
僕と西口さんはお互いの話をした。
時間はあっという間に過ぎた。
時計をみると、22時は過ぎていた。
僕は気分が良かった。
西口さんといい関係になったら、トラックドライバーの山本さんのことを気にしなくていいからだ。
「あっ。もうこんな時間か。ごめん。鈴木くん。俺、予定があるんだ。だからもうすぐ行かなきゃいけないんだ。」
「いえいえ。ホント楽しかったです。お忙しい中、ありがとうございます。」
「鈴木くん。また会ってもらえるかな?」
ドキン。
僕の胸は高鳴った。
「はい!!ぜひ!!」
「じゃあ次に会うまで、オススメの本があるから読んでほしいんだ。」
「えっ。はあ。」
「『金持ち父さん貧乏父さん』って本、知ってる?」
「聞いたことあります。」
「その本を読んで感想を聞かせてくれるかな?」
「わかりました。読んでおきます。」
僕は拍子抜けしたが、とりあえず言われた通り、ネットで即購入した。
「金持ち父さん貧乏父さん」。
元々お金に関しては詳しかった僕には、復習のような内容だった。
もちろん面白いけど、西口さんがこんな本読んで意味があるんだろう?
ブランド物を頑張って身につけている西口さんが、貯蓄がないことなんて僕にはバレバレなのに。
それから一週間ほどが経って、西口さんから連絡があった。
「どう?本読んだ?」
「面白い考え方です。勉強になります。」
「じゃあ感想聞きたいから、時間取れる?」
「はい。」
今度は喫茶店だった。
僕はディナーを西口さんと一緒にできないんだと、残念に思った。
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